rec
特殊フォーム
rec
という特殊フォームの実装について提案する。
このフォームは
[Clinger1985]
で定義されている
rec
と
named-lambda
を結合して一般化したものである。
このフォームを使うと、
自己参照を行う式を、簡単に非命令的に構築することができる。
その重要な用途として、
A. Church の lambda
フォームを拡張し、
再帰的手続きを直接的に定義することができるようになる。
このとき、
let
や letrec
のような別の特殊フォームを使う必要はないし、
H. B. Curry のコンビネータのような高度な式を使う必要もない。
また、define
とは異なり、
外部環境に変数束縛を導入する必要もない。
(F : N |--> 1, if N = 0; N * F(N - 1), otherwise).この表現は項 (term) であって、定義や命題ではない。
次に、Scheme で階乗関数を表現するための方法を考えてみる。
(define (F N) (if (zero? N) 1 (* N (F (- N 1)))))しかし、この式は項ではない。 階乗関数を変数
F
に束縛している。
この式自体は、
階乗関数の名前が必要とされている構文コンテキストにおいて
記述されることはないだろう。
(let () (define (F N) (if (zero? N) 1 (* N (F (- N 1))))) F)
(lambda (N) (let F ( (N N) ) (if (zero? N) 1 (* N (F (- N 1))))))
(letrec ( (F (lambda (N) (if (zero? N) 1 (* N (F (- N 1)))))) ) F)
((lambda (F) (F F)) (lambda (G) (lambda (N) (if (zero? N) 1 (* N ((G G) (- N 1)))))))
named-lambda
フォームによって解決されている。
それよりも早い時期に、
Kent Dybvig の Chez Scheme では、
これとは少し異なる構文により解決されている。
この特殊フォームを使えば、
階乗関数を次のように簡単に記述できる。
(named-lambda (F N) (if (zero? N) 1 (* N (F (- N 1)))))この式は関数項であり、階乗が適当な簡潔さで記述されている。
しかし、named-lambda
は後のバージョンの Scheme Report からは削除されている。
また、Chez Scheme (6.0a) や MIT Scheme (7.7.0)
のような最新の処理系にも存在しない
(MIT Scheme には named-lambda
があるが、別の意味論を持つフォームとなっている)。
(define S (cons 1 (delay S)))再帰的なオブジェクトを定義するためには、 階乗の場合と同様に、外部環境に束縛された変数が必要になる。 これを改善するために
let
や letrec
を使うと、階乗の場合と同じような問題が発生する。
rec
フォームで解決された。
このフォームを使うと、次のように記述することができる。
(rec S (cons 1 (delay S)))この式は非命令的であり、外部の変数束縛を必要としない。
このフォームも後のバージョンの Scheme Report から削除されている。 また、我々の観点では、このフォームだけでは、「問題 1」を解決することはできない。 「問題 1」に対する解法は次のようになるだろう。
(rec F (lambda (N) (if (zero? N) 1 (* N (F (- N 1))))))しかしやはり、数学的記法のように、十分に簡潔でも直観的でもない。
named-lambda
と rec
の利点を統合して一般化した
rec
特殊フォームを提案する。
この特殊フォームを使うと、階乗関数は次のように記述できる。
(rec (F N) (if (zero? N) 1 (* N (F (- N 1)))))
<derived expression> --> <rec expression>
<rec expression> --> (rec <variable>
<expression>)
<rec expression> --> (rec (<variable>+)
<body>)
define-syntax
, syntax-rules
,
letrec
, lambda
を提供している Scheme 処理系では、
以下のようにして rec
を実装できるだろう。
(define-syntax rec (syntax-rules () ((rec (NAME . VARIABLES) . BODY) (letrec ( (NAME (lambda VARIABLES . BODY)) ) NAME)) ((rec NAME EXPRESSION) (letrec ( (NAME EXPRESSION) ) NAME))))
rec
が階乗関数の末尾再帰による実装を許していることを示している。
> (define F (rec (F N) ((rec (G K L) (if (zero? K) L (G (- K 1) (* K L)))) N 1))) > F #<procedure> > (F 0) 1 > (F 10) 3628800
Copyright (C) Dr. Mirko Luedde (2002). All Rights Reserved.
Permission is hereby granted, free of charge, to any person obtaining a copy of this software and associated documentation files (the "Software"), to deal in the Software without restriction, including without limitation the rights to use, copy, modify, merge, publish, distribute, sublicense, and/or sell copies of the Software, and to permit persons to whom the Software is furnished to do so, subject to the following conditions:
The above copyright notice and this permission notice shall be included in all copies or substantial portions of the Software.
THE SOFTWARE IS PROVIDED "AS IS", WITHOUT WARRANTY OF ANY KIND, EXPRESS OR IMPLIED, INCLUDING BUT NOT LIMITED TO THE WARRANTIES OF MERCHANTABILITY, FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE AND NONINFRINGEMENT. IN NO EVENT SHALL THE AUTHORS OR COPYRIGHT HOLDERS BE LIABLE FOR ANY CLAIM, DAMAGES OR OTHER LIABILITY, WHETHER IN AN ACTION OF CONTRACT, TORT OR OTHERWISE, ARISING FROM, OUT OF OR IN CONNECTION WITH THE SOFTWARE OR THE USE OR OTHER DEALINGS IN THE SOFTWARE.